文化財の保存/修復 絵画・書跡分野における国宝・重要文化財等の保存修理(京都市)
株式会社岡墨光堂
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事業概要

株式会社岡墨光堂は京都の地で培った伝統の技と最新の装潢修理技術を駆使し、書画の表装と修理を中心に事業を展開しております。国宝や重要文化財といった指定文化財に限らず、お預かりした大切なご宝物の表装、修理をさせていただいております。

損傷著しい書画の完全解体修理

装丁を一旦解体して損傷を改善します。絵具や墨の剥落止め、裏打紙の打ち直しなどを施すとともに、所有者様とご相談の上、表装裂や軸首などの新調を行い、展示、鑑賞、保存に最適な状態に仕上げます。作品の未来を見据えた安全な修理を心掛けています。 例:掛軸の修理 例:下張りの構造

部分的な損傷への応急修理

ご法要や展覧会への貸し出し、展示に対応するための応急修理をいたします。損傷が軽微な場合は、当社がご要望の場所へ出向いて作業をさせていただくことも可能です。将来の完全解体修理の妨げにならない最適な処置を行います。

ご所蔵品の状況診断

修理の必要性や緊急性などについて、書画の所在地へ赴いて状況判断をいたします。破れや折れといった明らかな損傷だけでは判断できない場合が多く、当社の専門の技術者の調査に基づいた診断が必要です。複数のご宝物を調査した際には、修理の優先順位についてご提案をいたします。

新作書画の表装

新たに制作された作品の表装をいたします。掛軸、屏風、襖、巻子、冊子、額などのあらゆる装丁に対応し、作品の品格をより高める意匠をご提案いたします。

表装・装潢修理技術における材料と技の研究

伝統的に用いられている材料や技術について、最新の科学的知見に基づいたよりよい材料や技術の開発を試みています。また、熟練の技術者の高度な技について、様々な科学的解析を行うことで、技の継承に役立てる研究を進めています。

 

掛軸の修理

1. 掛軸に生じる損傷

掛軸は、鑑賞するときに開き保存するときに巻くことによって、必要以上に外気にさらすことなく本紙を守る優れた形式です。しかし、巻くことによって生じる折れや皺、巻いている間に生じる虫損や黴の発生など、保存状態や年月の経過にともなってさまざまな損傷が生じます。
損傷をそのままにしておけばさらに進行し、文化財にとって致命的な状況になりかねません。

掛軸の損傷

紐の断裂
紐が劣化している場合、突然切れることがあります。掛けた状態で切れ、落下した場合、本紙にも甚大な被害が及びます。

紐の断裂 修理前
修理前
紐の断裂 修理後
修理後

黴の発生
温湿度変化など外的要因によって、本紙に黴が発生し、拡大することがあります。

黴の発生 修理前
修理前
黴の発生 修理後
修理後

絵具の剥落
絵具層が劣化した状態で、掛軸を巻き解きすることで、絵具層が剥離・剥落することがあります。

折れ
仕立てられた直後は腰のある柔らかさをもっていた表具が経年により硬くなり、横折れが生じます。進行すれば亀裂や破れに至ります。

折れ 修理前
修理前
折れ 修理後
修理後

欠失
虫損や、素地である絹や紙の劣化、過去の修理であてられた補修材の不具合等の原因で本紙の一部が失われます。

染み、汚れ
染みや汚れを放置すると、本紙の鑑賞性を妨げるだけではなく、黴の発生を誘発する場合があります。

剥離
表装裂と裏打紙を接着する力が弱まり 裂地と本紙の接合部分が一部外れた状態です。

剥離 修理前
修理前
剥離 修理後
修理後

軸首のはずれ・欠失
軸首と軸木を接着する力が弱まり、軸首 が外れることがあります。

軸首のはずれ・欠失 修理前
修理前
軸首のはずれ・欠失 修理後
修理後

2. 掛軸の構造

平面に見える掛軸ですが、紙や裂を数層貼り合わせた立体構造をもちます。

掛軸の修理はこの層状構造を解体し、剥落止めなどの本紙処置を施し、再び組み立てる工程により成り立っています。

模式図

掛軸模式図

3. 一般的な解体修理の流れ

事前調査
  • ・お見積り
  • ・施工方針のご提案
ご契約いただく前に作品を実際に拝見し、施工方針のご提案と修理費用のお見積りをいたします。
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修理前調査 修理前調査
  • ・損傷状態の調査
  • ・作品の構造、組成調査
赤外線、紫外線、X線等を用いて詳細な作品の状態を調査し、より安全な施工につとめます。
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表面処置 表面処置
  • ・絵具の強化、安定化
  • ・汚れの除去
表面に付着した汚れを除去し、脆弱になった絵具の強化をはかります。
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裏面処置 裏面処置
  • ・旧裏打紙の除去
  • ・欠失部分の補修
  • ・新規の裏打ち
脆弱化した裏打紙を取り除き、欠失部分の補修を行います。将来の再修理に備えて、伝統的な材料を使います。
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仕立て 裏面処置
  • ・掛軸装への組み立て
  • ・納入箱等の作製
作品の風格に合った裂地を使い、掛軸装に仕立てます。作品の保存性を向上するための保存箱を設えます。
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納品
  • ・修理報告書の作成
修理中の作品調査の結果や使用材料、作業工程を記録した報告書を作成し、修理を完了した作品とともにお納めします。

 

伝統材料による次の世代へ受け継ぐための修理

糊
自社製。小麦澱粉を炊き、糊にしたものを裏漉しして使用。糊は、接着と柔軟性、可逆性に優れた伝統材料である小麦澱粉を炊いた糊を使用します。自社で糊を作ることで、防腐剤等が一切入らず、粘度等の調整を行うことができます。
肌裏を除く、増裏や総裏などの裏打ちには、古糊(自社製の新糊を約十年冷暗所にて保管したもの)を裏漉しして用います。
紙
裏打紙等は、保存性と強靭さを考慮し、楮を主体とする伝統的技法で制作されたものを用います。
肌裏紙 本美濃紙
増裏紙 美栖紙 上窪製 文化庁選定技術保存技術認定者。
総裏紙 宇陀紙 福西製 文化庁選定技術保存技術認定者。
裂
表装裂地は、本紙そのものを保護し、且つ装飾をするという目的で金襴や緞子等が付されます。時には作品の来歴を示すこともあります。
仕立ての際には、元の裂地を調整、あるいは各時代の美意識に見合った裂地の新調をご提案をいたします。

下張りの構造

襖や障子、屏風の下張りは、下図のように、特質と機能の異なる6種8層の紙を張り重ねます。

下張り図

この下張層が下地骨を補強すると同時に歪みを制御し、下地骨と本紙の伸縮の差を吸収する役割をもっています。
襖装や屏風装の作品のなかには、経年によって下地骨の木から滲出した脂などの痕が表面に浮き出していることがありますが、下地および下張りを適切に施工することによって、このような損傷を予防することができます。